ダーウィン事変【漫画レビュー】

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ある研究者によって人為的に作られた人間とチンパンジーのハーフであるチャーリーという存在がいます。人間と動物の狭間にいる歴史上で初の存在であるため、理解する者もいれば差別的な視線を送る者もいるようです。さらにそこには彼を利用しようとする過激派集団との争いも加わって来るので、命の危険があるバイオレンス的な描写が入りながらも、そのような存在が法的にどうあるべきかを取り上げた、ある仮題としての社会問題を扱った意欲作です。

書籍情報

漫画:うめざわしゅん
出版:講談社 アフタヌーンKC
ジャンル:SF、問題提起
既刊:4巻
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主要登場人物 

チャーリー 人間とチンパンジーのハーフ
ルーシー  チャーリーが高校に通い始めて出来た初めての友人

レビュー&感想

物語世界のベースは米国で、動物性食品を食べない、また動物由来製品も使用しないというヴィーガンの思想を先鋭化してしまった原理主義的な集団が、テロリズムの様相を帯びるまでになった状況を仮定としておいています。

そこに人間とチンパンジーのハーフ(ヒューマンジーと呼ばれる)であるチャーリーがいて、人間でも動物でも無い存在が持つべき権利の在り方の問いかけが重なります。

ただしチャーリーは庇護されるような存在では無く、人間より遙かに筋力・体力、そして知能もありそうな優越種として設定されているので、バイオレンスの要素も多く入って来てますね。

なお、実際に人間とチンパンジーの交配が可能かどうかは、不可能では無いかもしれないが実際に行うのはタブーという状況にあるようです。

お話はチャーリーが高校に通い始める辺りからが始まりです。ヒューマンジーとしての存在は15年前の誕生時に既に公になっていますが、実際に目にする同級生達からは当然のように好奇の視線が集まるのは仕方ありません。

そしてチャーリーと対になる物語のキーになる存在は、動物解放同盟(ALA:ANIMAL LIBERATION ALLIANCE)という過激派の動物権利団体です。ステーキハウスの爆破テロを実行したり、高校での銃撃事件を裏で糸を引いたりしている事が描かれます。

その団体のリーダー格であるファイヤアーベントは、殺人に躊躇することが全く無い相当にヤバイ人間ですが、既刊では未だ彼の本当の目的は見えていません。

こういう典型的なヴィラン役を登場させ、沢山の人が殺されるような状況が発生するのも米国風ですよね。

彼らALAによるテロとそれに対する反感が広がることで、人権がある人間とそれとは同様な権利は持たない動物との間にいる象徴的な存在のチャーリーに、世の人々からの差別が向けられるという構図が出来上がります。

ただ当のチャーリーは自身を特別視しておらず、人よりもチンパンジーの顔に近いように描写されていることもあって、それらの状況に対してもほぼ無表情です。

どちらかというと友人になって一緒にいることが多くなるルーシーが、その代弁者となっている声を上げている感じですね。それ故にALA側にも目を付けられてしまうのですが。

世の中からの糾弾が行われる背景については、実際にある米国内の強い人種差別感情なども下地にして描かれているようなので、あえて舞台として日本を選ばなかったのかもしれません。

ALAの活動はどんどん凶悪化し、チャーリーの身近な人達の危険度は上がって行き、そしてALA側で隠されている存在も明らかになりと、いずれはチャーリーの出生の秘密も解き明かしながら話は進んでいきそうで、先が見えないサスペンス感はイイですね。

なお、この作品を読もうとしたのは、同じ作者の『えれほん』という短編集を先に読んで、この作者さんの発想がヤバくて面白いと思ったからでした。

それらの作品でも法律というものをどう解釈するかという視点はちょこちょこ入ってくるので、そこは作者さんのベースに何かあるのかも知れません。

最終的には、あくまでも題材としての問題提起にとどめ、こうあるべきというようなものは示さずに終わらせるようにも思えるのですが、そこも含めて読者の浅い予想を裏切る展開を期待したいですね。

おすすめ!

論理的な解釈や多様な視点での議論がなされる話が好きな方。
海外ドラマ的な設定やストーリーの漫画を読んでみたい方に。

最新刊

最新刊の4巻では、当初は対立していた保安官捕のフィルが味方になってチャーリーとルーシーを匿ってくれます。かつての敵が味方にというのも定番ですね。そして二人はチャーリーの生物学上の父親であり、彼を誕生させたグロスマン博士を探すことを始めようとします。一方で、ALAはさらに過激な非人道的な事件を起こすのですが、その組織の中には隠された大きな存在がいることが明らかにされます。

参照作品

えれほん (Amazon)
現在、Prime Reading や Kindle Unlimited で全部読めるようなので、会員登録されている方はどうぞ。巻末にある「No Where」では、昔は動物を食べていたし利用していたという表現が出てきますね。