代々、予知能力を持つ王が治めるフリージア王国の第一王女は、8歳で予知能力を発現させ、王位継承権を確実なものとします。でもそれは能力ではなく、前世でシリーズ全作プレイ済みの乙女ゲーム「君と一筋の光を」としてのこの世界のシナリオを知っているからでした。さらに彼女は「それがこの国の悲劇の始まりだった」と攻略対象キャラに言われてしまう国を崩壊させるラスボスとして設定された最大の悪役。この世界ではヒロインに倒される側でした。
レビュー&感想
進学も決まり、趣味の乙女ゲームをシリーズ第一作からやり直そうと考えていた女子高生は、1ページ目で定番の交通事故にあってゲーム内に転生します。
ゲームをプレイするどころかその世界で人生を歩むことになってしまったのですが、残念ながら転生先はプレイヤーキャラであるヒロインではなく、その前に立ちはだかる極悪非道の外道ラスボス、プライド・ロイヤル・アイビー王女でした。
このタイプのお話の常道として、当然のように行いを正すことで良い結果を生み、ゲームのシナリオを変えていくのですが、この漫画の場合にはゲーム内では彼女が如何に酷い行いをしていたかが都度描写されます。
この極悪非道ぶりがかなりのもので、ヒロインをちょっとイジメたというようなレベルではなく。女王としてやりたい放題で、人がどんどん死んで行くのを笑って楽しんでいるようなレベルの悪行なので、まさにヴィラン級です。
そのため本来のゲーム内での最低最悪の外道ラスボスとして振る舞う悪の彼女と、現在のそうはならないように努力している善の彼女の二つの姿を常に対比させる描かれ方になっています。
二つの世界で正反対となる同一人物の善悪のそれぞれの面を描くことで、それぞれの悪さ/良さを強調し合う表現ですね。
また少なくとも既刊では恋愛要素は少なく、純粋に王位継承者として臣下を慈しみ、前世の記憶を予知能力ということにして道を正していくという描かれ方なので、少女漫画的な世界観とは一線を画したシリアス系のストーリーです。
補佐役となる義弟のステイルと一緒に騎士団長のロデリックの窮地を救い、初の近衛騎士となるアーサーと協力しながら宰相のジルベールの婚約者を救いと、困難な目に遭う周りの人々を助けて次期女王としての尊敬を得ていきます。
それでも当人としてはシナリオ上に設定された10年後の断罪は起こりえるものと覚悟しており、道を踏み外した時には自分を討ち、そしてヒロインである妹のティアラを守るようアーサーをはじめとした周りの人間に言い含めるのでした。
強いて言うなら、ラスボスとしてチートな能力設定があるにしても、元が普通の女子高生にしてはやや有能過ぎる気はしないではないですが、そこは物語なので。
ちなみに騎士団長の救出後に服が破れて素足を見られた11歳のプライドが騒ぐシーンがありますが、実は貴族がいたような時代には胸よりも足を見られることの方がより性的で不味かったそうです。
ドレスも胸の谷間は強調していても足下は長い裾で隠れていますからね。これは西洋には昔からある思想であると『傾国の仕立屋 ローズ・ベルダン』の雑学ページで説明されていました。
作品としては、それぞれのエピソードがしっかりと描かれているのも良いですね。特に2巻から3巻にかけてのジルベールとマリアンヌの話はお気に入りです。
単に宰相には不治の病に冒された婚約者がいるだけでも良かった訳ですが、きちんと二人の馴れ初めまで描いて、悪のプライドの行動、善のプライドの行動、ジルベールとマリアンヌの出逢い、そしてアーサーの本当の能力と場面が次々と切り替わりながら結末まで繋いでいく流れがとても上手いです。
悪役令嬢ものなのですが、ありがちな恋愛志向の作品ではなく、民のためにあるべき良き王という描かれ方なので、お話としても厚みがあって面白いですね。絵も丁寧でおすすめです。
さて、このお話も原作は「小説家になろう」にある作品なのですが、三巻目でまだ第一部完とされているお話の一割程度だったりします。コミカライズの刊行ペースも速くないので、先が長そうなのだけが気がかりです。
ゲーム内の外道な彼女の行動も手を抜かずしっかりと構成されかつ描かれているので、その分だけ主人公が取る行動との対比が秀逸で読み応えがあります。
最新刊
最新刊の3巻では、主人公達に恋愛要素がまだ少なめな分、少年と少女であったジルベールとマリアンヌとの初々しい恋が綺麗に描かれます。彼女が16歳になって他の男と婚約してしまう前に必ず迎えに行くと彼は約束し、勉学に打ち込み、格闘術や護身術を身につけ、特殊能力も活かしながら出世して、ついにマリアンヌの自宅に迎えに行くシーンはとてもカッコイイです。