前世の記憶を持つシャーリーの覚悟が痛々しくて、読むと涙が出そうになる作品です。物語の中でもかつての名は明かされず「お嬢様」とだけ表現されています。彼女は悪逆の限りを尽くした前領主の娘ではありますが、悪事については全く知らずに無垢に過ごしていました。しかし家族の事実を知って生きながらえようとはせず、自ら断頭台で処刑されることを望みました。ただその選択は15年の時を経ても彼女を知る多くの人の心に傷を残していたのです。
レビュー&感想
シャーリーの前世での選択は、ヘルトとは恋人同士であってかつ裏切られたからこそなのですが、家族の罪を認め、それを仕方が無いことと受け入れていて、けしてヘルトを恨んだりはしていませんでした。
その一方で、かつてのヘルトであるカイドは、領主となった今でもそうしてしまったことを後悔し続け自らを縛ることを選択しています。それは「お嬢様」の真実を知るかつての使用人達の想いを受け止めることでもありました。
未だに領地の子供達にまで語り継がれる悪逆領主から民を解放したのは、客観的には正しいことに違いありません。
しかしそのために取られた手段、それはけして意図的では無く偶然だったのかもしれませんが、恋仲であった二人にとっては最悪の選択になってしまいました。
前世の記憶を持ったまま転生したシャーリーは、ひょんなことから現領主であるカイドのメイドになって15年ぶりの再開となりますが、それはけして暖かいものでは無く、お互いにとって辛い過去を再確認するものでしかありませんでした。
作品中ではシャーリーの独白が続きます。それもあって漫画にしては台詞がとても多くなっている印象ですが、彼女の覚悟の重さを適切に表現していると思います。
またカロリーナなど、かつての彼女を知る人々の想いも沢山の言葉で語られ、それがまた「お嬢様」のかつての選択の哀しさを深めて行き、目に涙を浮かべずに読むのは難しいくらいです。
もちろんお互いに初恋をこじらせた二人は、事件の解決とイザドルなどの周りの人達の支えもあり、かつての関係を再構築することが出来て、シャーリーはタイトルの通りの「狼領主のお嬢様」となります。
深い哀しみの裏返しとしてやっと掴んだ幸せには、違う意味での涙を呼び起こしてしまいそうです。これはおすすめですよ。
そして4巻からは、番外編を挟んで次の物語が始まります。ホントかつてのお嬢様と周りの人々の繋がりを語るのが上手いですよね。
ただし、ここからは、お友達になれたと思った王女のアジェーレアが怖すぎで、せっかく幸せになったシャーリーを、さらにここまで不幸な目に遭わせるとか辛すぎます。
前半の3巻までの流れでは彼女の哀しみや辛さへの共感と、そこからの解放が読後感の良さを出していたのですが、後半での恐怖への共感はちょっと相手が理解できなさすぎて気味が悪いですし、恐怖から解放されても後味が悪いだけで気持ちよくないです。
最終的には6巻で完結となったのですが、正直、後半は王女の異質さばかりが目立ってしまったのと、ウィルの立場の回収とか前半での積み残しを片付けようとしているのが透けて見えて、物語としては今ひとつでした。イザドルが大丈夫なのは良かったのですが、なんとなくそれも見えていましたしね。
という訳で、オススメするなら前半の物語の4巻の途中までになってしまいますかね。
ちょっと泣きたくなるストーリーを読みたい方に。
特に、愛を語る信頼を語る言葉の重みが好きな方にはおすすめです。
最新刊
6巻で完結です。
参考作品
メイドのシャーリーと言えばこちらでしょと思った方は、お仲間ですw