作品の第一話にも出てきますが、憲法第25条にある「すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する」の生存権に基づくタイトルで、生活保護における課題とそれに取り組む人々を描いている作品です。重い話に正面から取り組んでいる良い漫画ですよ。
レビュー&感想
東京の東区という架空の地域における福祉事務所の生活課、つまり生活保護を扱う部署に新人で配属された、えみるを中心とした福祉で働く人々のお話です。公務員なんて高収入で安定していると揶揄されることさえある方達ですが、こういう仕事をいきなりやれと言われたら正直自分も凹むと思います。
漫画の構成としては、ちょっと抜けている主人公が右も左も分からないままで福祉の仕事をやらされ、当然のように失敗しますが、それによって我が国の法律がどうなっているのかや対象者の隠された実情を語っていくという形になっています。
その法律には最悪の事態になる前に助けてくれるものもあれば、まさに隙間に落ちるかのように救ってくれないものがあることが語られますが、そこにはあらためて納得と驚きがありますね。もちろん法律というものを曖昧に運用したら取り返しが付かないこともあるので厳格な適用があるのですが、その厳格さゆえに溝が生じてしまっているというのもやるせない所です。
特に2巻で出てくる生活保護を受けている世帯の子供が黙ってアルバイトをしたらお金を全額返さないといけないとか、最低限度の生活を保障するという観点からは確かにそうだろうとは理解する一方で、成人で無い子供が稼いだ収入までそこに入れて考えなければいけないという惨さはなんなのだろうとは思います。
生活保護の対象となる方々の事情も様々で、虐待があったり鬱だったりで本当に支援が必要な人もいれば、これは明らかに怠けているのじゃないかという人も描写されています。中でも自分からは言い出せない人というのが多く描かれていますかね。恥ずかしいとか、そこまで頼れないとかで、実際に役所の窓口に来てさえもらえば救える手はあるのにそうしない人達を、如何に動かすかが大変かなのですが、そこにはチームで立ち向かうという仕事の原則がきちんと描かれているのは良いですね。
最初の方では短めな話が多いですが、5巻途中からはテーマを持っての長めの話が多くなり、6巻の終わりまでかけて生活保護を受けているアルコール依存症の方を取り上げています。最後には酒に頼って逃げてしまうから、そうならないために人に頼るというのが断酒会なんですね。
続く7巻と8巻では、主人公をえみるから栗林に代えて、シングルマザーのネグレクトから、世代間の貧困の連鎖、そして生活保護下での妊娠と出産までが描かれます。仕事が出来そうに見えた栗林が上手く支援を進められない苦悩も良く描かれていて、投げやりな母親に向かって「人の手を借りる覚悟を持ちなさい」と熱く語って支援を続け、最後にはハッピーエンドになるので読後感が良いエピソードです。
ここは後半に裏で進んでいたえみるの側の話も良かったですよ。先に触れたアルバイトをしていた子のその後なのですが、生活保護世帯における子供達を取り上げたこのお話は、子を持つ親としてはちょっと涙が浮かんでくるのは止められなかったですね。
そして9巻から11巻までは再びえみるが中心となって、ついに生活保護をテーマとするからには避けては通れない貧困ビジネスを扱います。それに取り込まれてしまっている人達、それを仕掛けている悪い奴ら、双方との厳しいやりとりが描かれて、最後には暴力沙汰にまでなりますが、組織全体の力でなんとか解決することが出来ています。
生活保護に関する問題は非常に複雑ですが、こうして色々な視点があって、そして様々な人が動いて成り立っているのだということを漫画として描いてもらえると分かり易くて良いですね。
生活保護って実際どう運用されているかを、なるべく優しく知りたい方に。
チームで課題に立ち向かうお話が好きな方にも。
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参照作品
単に公務員つながりで漫画ではなく古い映画なのですが、黒澤明の『生きる』も一見の価値ありだなと思い出したので、ついでにおすすめしておきます。