書籍タイトルの通り「スパイ」と「家族」が本作のテーマです。ある長期スパンの作戦のために、有能とされるスパイが「家族」を用意するところから始まります。もちろん偽りの家族なのですが、本当の家族で無いからこそより家族らしくせねばならないという状況が生じるので、コメディタッチでありながら家族の在り方とは何かにも触れていきます。
レビュー&感想
東西冷戦の終結でスパイが大量失業するなんて言われたのも、今やかなりの昔です。冷戦時代は多数のスパイ物語があり小説や映画の題材として溢れ、かつ楽しまれていました。でもそれも今から見るとシリアスなストーリーでは時代遅れで滑稽になってしまうので、それなら最初からコメディのモチーフにしようと設定されたのは良い選択ですね。
妻は街でたまたま出会った女性だけど実は殺し屋の裏の顔を持っていたとなっていますが、女性が殺し屋とか暗殺者でそれを公には隠しているというのは、オタメディア界隈では許容されるというか積極的に好まれる設定ですね。
なので子供の頃から訓練されたから、または小さい頃から素質があったからとかのあっさりした根拠で、滅茶苦茶に強い女性が簡単に用意されてしまうことが多々あります。論外な強さというのはコメディ要素を補完しますし、殺人級の料理の腕もその一つとして典型的に与えられる属性でしょうか。
娘のアーニャは超能力者とはいえテレパスに限定しているのは良い塩梅ではないかと。テレキネシスとかテレポートとかも使えてしまうと父の仕事が有利になり過ぎてしまいそうです。
公に出来ない「スパイ」の設定ゆえに、登場人物それぞれが秘密を持っている状況になっており、夫と妻はお互いの裏の仕事は秘密。ヨルの弟であるブライアも秘密警察という裏の仕事は姉には秘密。5巻辺りから登場する後輩女スパイのフィオナも正体はもちろん、ロイドへの恋心はバレバレだが秘密とされているようです。
アーニャはテレパスなのでそれらをみんな分かっているけど、自分も超能力者であることは秘密にしているので言えない。みんなに上手く制限がかかっていることで、各エピソードの中でそれぞれのキャラが自分の秘密を守りながら動き、そこを知っているアーニャが上手く(?)繋ぎながら解決していくという作りなのですが、そこはコメディタッチなので毎回ドタバタ劇となって楽しめます。
そのドタバタをクリアして行く中で、ロイド達がもう一方のテーマでもある「家族」の在り方に気づいていくという構成が本作品の良さですね。家族が終わって捨てられて、また孤児院に戻ったりしないようにと実は人知れず家族を保ち続ける努力を一番しているのはアーニャで、結果としてフォージャー家でも子はかすがいとなっているように思えます。
スパイ組織がブラック企業的に描写されているのも、今風にして読者の共感を得るのに一役買っていそうでしょうか。ちなみに私のお気に入りのキャラはロイドの上司である管理官のシルヴィアです。
本来のオペレーションである「梟(ストリクス(フクロウのこと))」では、アーニャが通う名門イーデン校で優秀な子供への表彰の印となっている「ステラ」を8個集めて、同級生の息子経由でターゲットに近づくという初期設定があります。
しかしジャンプの漫画だと、この手のアイテムをきちんと集めようとするのは最初の1、2個だけで、直ぐに最後には全部が一気に集まるとか集める意味が無かったとかなるのが定番です。アニメ化もした人気作なので、そこのメインストーリーを今後どう展開させていくのかは気になりますね。
ヒーロー/ヒロインが逆境にあっても必ず結果を出す王道展開が好きな方や
どんな形であれ家族っていいもんだよなぁと思える方に。