作者のあときによると、異世界転生のお話で、主人公の親や、残された人たちはどうしているのだろうと考えたのが、この作品を作るきっかけだったそうです。そう来たかという目の付け所は見事で、子を持つ親であれば、いやそうで無くても、とても心に残る作品です。
レビュー&感想
最初に自費出版された方を読んでいて、これは良い作品だと思って友人にも勧めていました。その後にコミックスとして出たので蔵書に入れようと買ってから、作者が『伝説のお母さん』を描かれた方と気づきました。ある世界を少し横から見てみる目線が素晴らしいですね。
17年ぶりに会った未だヤンキーっぽい香りのする同級生の美央の第一声がタイトルなのですが、作品全体をきちんと表していて、これしか無いなと思います。「転生した」ではなく「転生したっぽい」という可能性にかけている感がいいです。
突然の意味不明な発言に戸惑う堂原に、美央は3ヶ月前に事故で無くなった17歳の息子がいたことを話し、そして再度、息子は死んだんじゃなくて異世界に転生したのだと主張します。
そんなことを突然言われたら、異世界転生のプロットを熟知しているオタクじゃ無くたって、あぁ可哀想にって同情しますよね。母親として悲しみを受け止めきれずに、そう思ってしまうのも無理はないよねと。
でも、美央は静かに震えながら涙を浮かべるような母親ではなく、行動する母親でした。オタクとして唯一記憶に残っていた堂原を呼び出し、息子を異世界から呼び戻すか自分が行く方法を探し始めます。
事故で死ねばいいのか、召喚されれば良いのか、祈れば良いのか、その方法を真面目に探す美央は端から見ればおかしいのですが、愛していた子供を思う気持ちも同時に描かれているので、その哀しさに共感して涙が浮かんできそうになります。
美央の行動力に押されつつ一緒にいるうちに、堂原にとっても気づきがありました。異世界転生の物語を読みながら、ある日突然自分にも特別なことが起こるかもしれないという楽しい妄想は、大人になるにつれて、そんなことはあるわけない、自分は主人公ではないと客観的に捉えることしか出来なくなっていたと。
でもその世界が好きだからこそ、それが夢みたいな作り話だと分かる、でも好きなのは変わらないし、これまで生きる力をくれたのだと。美央との出会いは堂原にとっても自分を見つめ直す良い機会だったのでしょう。
巻末にある前日譚の「私の息子が異世界転生するまで」も本編を補完する哀しくせつない話です。そしてもう一つの番外編であるエピローグとしての「その後」では本作が本当に終わるところを綺麗に見せてくれます。
本を閉じて、きっと、あぁ良かったなと思えるに違いありません。
いい歳をしてオタク趣味から離れられず自己反省の日々の方に。
さわやかな読後感を得たい方に。
ちなみに、小学館からのフルVer.という再コミカライズ版があるのですが、良作である本作品の上書きをしたくなくて読めずにいます。
最新刊
全1巻です。