漫画で色々な事を学んだと主張する自分としては、この漫画をおすすめしない訳にはいきません。もちろん学習漫画などではありません。ちゃんとしたラブコメなんです。それなのに視覚障害者の方とその周りの方々について、明るく前向きなストーリーで自然と知ることもできてしまう優れた作品です。読んで損はさせません。
レビュー&感想
森生は顔に大きな傷がある強面でヤンキーな振る舞いをしていることもあり、他人から避けられていましたが、弱視のユキコには見えないので気になりませんでした。森生はひょんな事から野良犬がなつくようにしてユキコに求愛して二人の関係が始まります。
顔に大きな傷がある人にしか分からない気持ち、視覚に障害がある人にしから分からない気持ち、それらは二人に共通のものではあるのですが、だからと言ってそんな視線を向ける社会に背を向けることもなく、ずんずんと道を切り開いて行くのが良いです。
登場するユキコの盲学校の級友二人もとても前向きです。夜など周りが暗ければ少しだけ見える空ちゃんは、伴走者がいなくても独りで走りたくて、実際にそれに挑戦しています。ほぼ全盲の青野君は見えないのが当たり前だから見えると言うことにこだわりが無く、これが僕の世界だから困っていないよと言い切ります。特に青野君が色を勉強する話は凄いと思いました。
このようにこの作品に登場する視覚障害者の高校生達は、目が見えない可哀想な側の人という視点では描かれていないのがとても良いところです。ここは読んでいて自分の固まった視点の大きな誤りを指摘されたと思いましたね。本当はこうしたいという主張をちゃんと持っていて前向きなキャラは好感が持てます。
ユキコは弱視だけれども、ハンバーガーショップでバイトを始めます。世の中の職場って、ただでさえ人手不足で余計な負担は負いたくない思っている人が大半でしょう。だから当然最初は迷惑がられます。でもちょっとした工夫、周りの人のちょっとした気の使い方があるだけで全然出来るんです。チャラい店長さんグッジョブです。
スポーツでもバイトでも旅行でも、障害のある人がやりたいことを言って、それを社会が理解して少しずつでも出来るようにしていく。そうすると少しだけ世界が前に進んで良いものになって行く。だから世界が良くなるためには、障害のある人が声を上げること、先駆者として道を開いていくことは価値があることだと思い知らされます。
ここってなんとなく『ここは今から倫理です。』の7巻にある「どうして人を殺してはいけないか」のあるべき世界の議論にも根っこで繋がっている気がするんですよね。
もちろん障害者支援については炎上商法のような主張の仕方をする方もいて、それは普通に健常者同士の調整事であっても良い結果を生まないやり方なので私は嫌いですが、同じ主張であってもこの漫画では絶対にそのような表現はされていないことを保証します。
社会から障害がある人への対応の悪い面についても多く語られています。点字ブロックが何のためにあるのかは当然のこととして知っているのに、街中で駅でそれが有効になっていない状況も、私たちはこれまた当然のように知っていますよね。
また一番近くでサポートをする家族の苦悩も描かれます。けして嫌々でやっているのでは無いはずなのに、周りからは当然のこととして求められてしまうプレッシャーから来る辛さ、そういうものもきちんと扱って描かれているのですが、絵柄もあってか悲壮感ばかりではないのが救いです。
最後にはユキコは大学に進学することにします。そこには視覚障害者に対する様々な支援策が用意されているのですが、それは以前に同じような学生を受け入れていたからであることが語られます。それはコストやリソースをかけて支援に動いた大学側の人々も、もちろん素晴らしいのですが、ユキコの前に大学に通いたいと勇気を出して言った先輩がいたからこそ、今は彼女の前に道があるのだというのがイイですね。
自分の視野を少し広げてみたい方に。
前向きな若者達の明るく楽しいストーリーが好きな方にも。
最新刊
全8巻で完結です。