吹雪の夜、ジル・サーヴェルは追われていた。化け物じみた魔力量を持ち「軍神令嬢」と呼ばれ、婚約者である王子のために幾つもの戦場を駆けた乙女は、その初恋の王子に裏切られ、冤罪をかけられ、なんとか逃げ切ろうとするところで、ついには聖槍で突かれる。そして、次さえあったなら利用されたままで終わらないのにと力尽きたはずだった。
しかしその直後に6年前のまだ10歳の自分が王子の求婚を受ける直前の時間にいることに気づくジル。そしてやり直しのために、王子から逃げたあげくにパーティに来ていた別の男と結婚すると宣言したが、それは「呪い持ちの竜帝」だった!
レビュー&感想
「軍神令嬢」と「竜神の祝福を受けた皇帝」という、どちらもかなりお強い二人が、不幸な未来が繰り返されないように過去から運命と闘う物語なのですが、コメディ要素たっぷりで楽しめます。
ジルは自ら結婚を持ちかけておきながら、自身が10歳であっても良いのかと問うと、ハディスは「うん、理想的な年齢だ」と笑顔で返します。
ちょっと待て、こいつは幼女趣味かと、中身が16歳のジルはドン引きして一度は求婚を撤回します。
しかし竜神であるラーヴェが見えてしまったことに合わせ、ハディスの恋愛音痴なピュアな気持ちと、彼の作る美味しい食べ物に胃袋を捕まれてしまって、結局は「あなたを幸せにいたします。生涯をかけて」と再度求婚するのでした。
そこからは冗談抜きに強かったジルが奮闘し、反皇帝派と戦って行くのですが、一方でハディスの方は、苺のホールケーキ、アップルパイ、クロワッサン、リンゴのウサギさんと「三角巾をかぶった悪魔」として美味なる食べ物を強力な武器として幼女に攻撃を続け、陥落させることに成功します。
ジルがそれらに抗えないところは『姫様“拷問”の時間です』に通じる面白さがありますね。あ、皇帝はもちろん厨房に立つだけで無く、キメるところはちゃんとやってますよ。
後に再開するジークとカミラというジルのかつての部下(過去なのでまだ部下にはなっていない)も、女性のカミラの方が強そうですし、泥棒ネコちゃんという台詞を吐く公爵令嬢のスフィアも、皆を逃がすために一人死を覚悟して残ろうとしたり、悪事を働いた父親を告発しようとしたりしています。さらには嫉妬に狂う女神まで含めて、みんな強い女性として描かれているのが特徴ですね。まぁ船を投げたり、石の壁を拳でぶち破るジルが最強ですが。
戦いは激しくなっていきますが、それはそれで二人の関係はさらに甘くなりながら、お話はまだまだ続くようです。
ジルのさすが軍神令嬢と言える戦いっぷりはすがすがしいです。
ハディスの奥手のようでなかなか鋭いアプローチと、それに負けてしまうジルも見物です。
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