もうタイトルそのままです。転生前の人生経験を生かすストーリーは数あれど、まさに「おじさん」であるということがこの作品の魅力です。たとえば『幼女戦記』もいい年した男性が幼女へ転生してしまうのですが、あれはちょっと頭の良いイイ男な感じですよね。
しかし、この作品の主人公である屯田林憲三郎は52歳の公務員。しかもオタクで、バーコードハゲで、他の令嬢を心配する心情が子供を見守る親目線の見事なまでのおじさん。 めちゃくちゃ共感できます。
レビュー&感想
屯田林憲三郎(52歳)が、お約束の事故に遭って転生したのは、15歳の縦ロールの公爵令嬢グレイス・オーヴェルヌ。そしてそこは娘がプレイしていた乙女ゲームの世界でした。
転生ものでは、神様からチート能力を授けられますが、憲三郎は特にそんなイベントもないままで、これまでの人生経験をベースに「優雅変換(エレガントチート)」を繰り出します。
憲三郎が社会人として長年染みついた礼儀正しさで対応しようと考えるだけで、その世界の実体としてのグレイスも貴族令嬢として相応しい振る舞いをして見せるのです。
この作品の良いところは、見た目は典型的な冴えないおじさんなのに、ちゃんとおじさんとしてカッコイイ所です。世の中には駄目なおじさんがあふれていますが、時々、おっ尊敬できるなって人がいたり、場面があったりするじゃないですか。
グレイス(憲三郎)は、イベント毎にそんな姿を度々披露してくれて、けして人生に疲れてくたびれたおじさんのようには描写されていません。そこがイイです。おじさんなので、お寒いシャレは外せないですけどね。
一方で、15歳へ転生したので老眼では無くなって快適とか、人の名前がとっさに出てこないとか、読者がおじさんなら出来てしまう共感がヤバいです。
3巻の後書きでは作者の方も52歳になったと述べられていましたので、だからこそ出来る実感のこもった表現が溢れています。
あの大流行したおもちゃについてもそうで、全部揃えられなかったり、分解したりについても、世代の近いおじさんなら凄く分かるぞ!という感慨に浸ることができるでしょう。
そんなネタを随所に挟みつつ、グレイス(憲三郎)はオタクとしての適応力を見せて、攻略対象の男性キャラ達、そして本来はプレイヤーキャラでヒロインのはずのアンナ達から「シャララ〜ン♪」という効果音と共に好感度を爆上げされながらゲーム上のストーリーを進めていきます。
ちゃんとミニゲームもありますよ。2巻になると現世(?)に残された妻と娘の日菜子との関与も増えてきて、この物語のあるべきゴールがゲームクリアであると示唆されるのも安心できますね。
日菜子がゲーム世界に影響を与えようとした時に、父と娘のエピソードを思い出すように描かれるのも子を持つ親としては微笑ましく楽しめます。良作なので息切れせずに上手く盛り上げてエンディングまで繋げて欲しいです。
普通の悪役令嬢に飽きて、一風変わった転生ものを読みたい方は是非!
もしあなたが幸運にもおじさんなら、2倍、いや3倍楽しめます。